自転車操業の教科情報実践報告
   その4 「評価について」        


1. はじめに
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ちょうど今頃は,どこの学校も成績処理の真っ最中ではありませんか?
本校も今がまさにそれ。自転車操業にも火がつく時期です。この忙しい
時期に「評価」についてお話しするのは,ある意味チャレンジングかも
しれませんが,本校なりに工夫した評価の方法をご紹介します。こんな
やり方もあるんだなぁという感じでご覧いただければと思います。

評価といいながら,実は本校では「情報のテストは実施しない」と決め
ています。成績は授業内の活動や作品評価から算出しています。ペー
パーテストを実施しないのは,「情報嫌いをつくらない」ためにはどう
すれば良いかと色々と考えを巡らせた結果です。

情報嫌いをつくらないためにはどうしたらいいか。
−教え込みや,丸暗記をさせるような授業にはしない。
−生徒が興味を持つ実習テーマを設定する。
−実習を充実させて情報科の目標をバランスよく達成したい。
−テストは,知識確認の側面が強いのでバランスが崩れる。
 (単純に,生徒はテストが嫌いですし)

しかしペーパーテストを実施しないというのは予想以上に大変です。小
テストをしようかなと思いつつも,それをすると今のような比較的自由
な実習中心の授業がやりづらくなります。つまり自転車操業がやりにく
くなるというわけです。


2. 評価について
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さて,実際の生徒の反応ですが,テストがないので実習に集中してくれ
ます。反面,「テストもなしでどないして評価つけんねん!」というツ
ッコミが聞こえてきそうです。テストがないのに成績表に評定が出てい
るのは不自然に思えるでしょう。生徒のこうした反応には,評価につい
ての公平性と客観性をできる限り保とうとすることで対応しています。

(1)評価観点をできるだけ細かく設定する
例えば,1学期の課題「Wordで時間割作成」の評価では以下のように細
かいチェック項目が並びます。

 ・期限内に印刷して提出できたか
 ・タイトルをワードアートで作成できたか
 ・表(10行6列)が正しく作れているか
 ・セルの結合が2か所行えているか
 ・クリップアートを挿入できているか

それぞれの項目について,
「A:正しくできた」「B:不足」「C:できていない」
という評価をし,点数化します。

先日ご紹介したワークシートを使う授業でも同様です。意見・考察等書
いている内容によって,1項目ずつA〜Cで評価を行いました。作品が
完成してからどんぶり勘定で点をつけるのではなく,具体的な細かい観
点に分け,各観点の点数を合計することで,公平性と客観性を保とうと
考えています。この方が生徒への説明もしやすいです。

(2)教員評価について
こうした方法でスキル面についてはある程度客観的な評価を行えますが,
作品の内容やデザインといった項目を評価しようとすると,途端に採点
者の主観が問題になってきます。

従って,このような評価の場合には,生徒による相互評価と教員評価の
両方を加味し,成績を出す努力をしています。「主観も集まれば客観的
になる」との考えからです。

本校ではT.T(ティーム・ティーチング)を実施していますので,教員
評価も常に2人で実施します。それぞれの評価を平均することで,作品
の教員評価点を算出しています。評価基準と観点について事前に打ち合
わせをすれば,2人の評価が全く違うということもありません。教師の
目も捨てたもんじゃありません。

(3)相互評価について
生徒の相互評価も成績に反映させることについては,3つの理由があり
ます。1つは,デザインについては教員も素人であること。2つ目は生
徒自身が納得できる評価をしたいから。そして3つ目は生徒の自己評価
力を育てるためです。

相互評価を取り入れる場面として,2学期に実施した「雑誌風のインタ
ビュー記事を作ろう」を例に挙げると,
・評価観点I「デザイン」:写真・文字の装飾など見やすくする工夫
・評価観点II「内容」:タイトルの設定,インタビュー記事の内容
がそれにあたります。

基本的にはほかの課題でもこれら「内容」「デザイン」の2項目で評価
させています。スキル面の評価と違うのは,「B」を基準として,「A
:よく工夫している」,「C:もう一工夫」,そして「A」でも特にす
ばらしいものは「S」をつけるところです。つまり「S−A−B−C」
の4段階で評価させています。「Sはスペシャル!スーパー!すごい!
のSだ」と説明しています。

従って「デザイン」と「内容」の評価は,「S=5点」〜「C=2点」
で,10点満点の10〜4点で計算し,Excelで平均を出して,評価に加え
ています。

また相互評価では,点数だけでなくコメントを書かせています。このコ
メントは生徒評価上位の作品を見せる時に一緒に紹介しています。

「相互評価なんてやったことがない」と戸惑ったり,中にはいい加減な
評価を行う生徒もありましたが,回数を重ねるうちに慣れてきたようで
す。今後は評価コメントをできるだけ生徒全員に返すようにしたいと考
えています。

(4)評価観点は公開する
これも各生徒に自身の成績を納得してもらうために行っている方策です。
(1)の評価項目については,学期末に教室に掲示します。またここで
ご紹介したような評価方法についても,課題作成前に生徒に予告するよ
うしています。こうした観点の公開は,生徒達にとって画期的だったよ
うです。

こうした様々な工夫が功を奏したのか,学期末の点数に異議を申し出た
ものは,今のところ有りません。



3.失敗経験から生まれた工夫など(まとめにかえて)
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多くの先生が試行錯誤し,失敗の連続の中で情報の授業を展開しておら
れるのだと思います。山積の問題の中には,ちょっとした工夫で解決で
きるものと,じっくり考えなければならないものがあるはずです。後者
は偉い先生にお任せしたり,自分なりに考え続けるうちにぼんやり答え
が出てくるものでしょう。前者の「ちょっとした工夫」は,現場の実践
から生まれてくる「コロンブスの卵」なのではないでしょうか。だから
こそアイディアの交流が必要なのだと思います。

というわけで,まとめにかえて,この連載ではご紹介しきれなかった工
夫,アイディアを簡単に列挙します。

(1)コンピュータを使った作品制作の前に
いきなりコンピュータで作成し始めると,技巧ばかりにこったり,コン
ピュータの前で「何をしようか」と固まる生徒が出てきがちです。そこ
で作品制作の前に,必ず「下書シート」「絵コンテシート」というもの
を配布し,まず紙の上で「内容」や大まかな「デザイン」を練る時間を
設けています。かなり効果がありますし,シートを提出させ,これも評
価することで,まじめな生徒とそうじゃない生徒の差をつけることもで
きます。

(2)うるさいクラスには「PowerPoint
「指示を聞かない」「何度も同じ質問をする」実習中はこんな生徒が多
発します。これは代わりに答えてくれる物を用意すればある程度回避で
きます。私の場合は「今日やること」,「スケジュール」,「提出物」
などの指示を,前もってPowerPointで教室の前に表示しています。おか
げで生徒から,「情報を教えるようになってイライラしているね」とい
われることもなくなりました。

(3)年度はじめ・年度末にアンケート
年度当初は生徒のスキルと要望を調べるためのアンケートを実施し,授
業の参考としています。また年度末には,1年間の授業内容について,
よかった内容と悪かった内容を聞いたり,授業への評価をさせています。
工夫を生むためには,何が失敗だったのかを知る必要があります。生徒
の声をもとに,情報科主任と相談して授業を作っています。


さて,4回にわたり,他愛も無い実践を書かせていただき,ありがとう
ございました。授業だけでなくこの実践報告を書くのも「自転車操業」
でやってきましたが,今回が最後となりました。ご紹介したように「情
報=コンピュータとならない授業」,「コンピュータを道具として使う
授業」を目標に,いろいろ実践してきました。しかしそのような授業が
できたかどうか・・・。

情報科を担当して3年目になりますが,未だに「次の課題,何にしよ
う?」という自転車操業で苦しんでいます。でもどこか楽しんで授業を
しているような気がします。そんな情報の先生,多いのではないです
か?次に連載される,今井先生,成瀬先生もそんな先生方です。あとは
よろしくお願いします。

それでは,ありがとうございました。
また先生方のご意見をお待ちしています。

日本文教出版 教科「情報」メールマガジン 第58号(2004.7.16発行)掲載

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